<p align="right"><span class="small-text">公開日: 2025-10-13<br>更新日: 2025-10-13
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# 金田正樹・伊藤岳『山の救急法』
ここ数日間は日本赤十字社の[救命講習と救命員養成講習](https://www.jrc.or.jp/study/kind/emergency/ "https://www.jrc.or.jp/study/kind/emergency/")を受講していた。年々簡略化が進んでいると聞くが、たしかにそうだと実感する。脈拍測定や間接圧迫止血、細かな手技は省略され、市民にもなんとか救急員になってほしいという切実な願いが見て取れた。
同時に、そういった細かな点や、そこで発生する疑問が山でのFA(ファーストエイド)では必要であることも多い。私はそういった疑問を解消するために『[図解 山の救急法](https://www.tokyo-np.co.jp/article/3701 "https://www.tokyo-np.co.jp/article/3701")』 を使っているので、ここで紹介しよう。
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著者である金田正樹氏、伊藤岳氏はともに現役医師であり、エベレストからアイランドピークまで確かな登山歴を持つ山ヤでもある。金田氏の名前は名著『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか』で記憶しておられる方も多いだろう。
そのような両氏が、医師として、そして登山者としてこの本を書いた動機は「はじめに」に記されている。
>また登山のためのファーストエイドの書籍も多いが、医学的根拠がしっかりと書かれたものは少ない。山のファーストエイドも「なぜそうするのか」という事を理解していないと決して身につかない。
>簡単なファーストエイドなんてありえない。
>どんなに重症であっても、適切な病院に引き渡すまで、あなたには現場で最大の努力をしてもらいたい。ファーストエイドを学ぶ原点は、最悪の状況を想定して最善の準備をしておくことである。
>本書は、自身が長い間、外傷患者の治療にあたってきた経験、山岳ガイドの方々にファーストエイドを教えてきた経験、医療資源の乏しい災害現場での医療活動を行ってきた経験から、野外での救急法について、特にファーストエイドのための医学的根拠について重点的に記述したものです。[^klsa]
山の中ではさまざまな危険がある。滑落、落石、転倒による骨折、裂傷、打撲。天候に起因する低体温症、熱中症。心臓停止や呼吸停止、凍傷、高山病。それら状況に陥っても、街なら条件が揃えば通報後10分ほどで救急車がきてくれる。しかし、山では通報ができるかどうかさえ不確かだ。
山岳救助隊が来るのは、数時間後かもしれない。いや、場所と条件によっては、明日以降かもしれない。
そんな状況の中、救急法は命を守る重要な技術となる。
世の中に「サバイバル」の文脈で書かれた野外救急法に関する著作や、簡単なマニュアル本などは存在する。しかし、山に精通した専門医が「なぜその方法が必要なのか」を医学的に説明した一般書は、いまも少ない。
コラムでは著者が勤務したアフガン戦傷外科病院での経験、日本での凍傷治療の創意工夫などが淡々とした筆致で描かれる。しかし、その現場はどれも重い責任と不条理が存在する場所である。
常に野外での救急救命に携わった経験から、同時に安易なハウツー本に堕することなく医師としての専門知識から救急法の「根拠と方法」を述べたこの本は、野外でさまざまな危険に向き合う人の導きの糸となってくれるだろう。
[^klsa]:金田正樹・伊藤岳, 2018, 『図解 山の救急法』 東京新聞, 3.