<p align="right"><span class="small-text">公開日: 2025-12-7<br>更新日: 2025-12-8 </span></p> # 木を削るということ -ウッドカービングことはじめ- ### ごあいさつ はじめての方ははじめまして、見知った方はこんにちは。[Fedibirdのうえの](https://fedibird.com/@utan)です。 この記事は[Fediverse創作展示会](https://adventar.org/calendars/11478)7日目の展示です。ここでは、私が2024年から取り組んでいるウッドカービング(木を削ってものを作る)をまとめています。 それでは、よろしくお願いします。 &#13;&#10; &#13;&#10; --- ### 物作りとの出会い 物作りが好きだった。 大学で哲学を学んでも「これは観念論に過ぎない」という思いが常にあった。何らかの実践、足や手を動かしながら何かを作っていく人間のダイナミックさへの憧憬は強くあった。 そんな思いから、大学を卒業して日本酒造りの酒蔵へ飛び込んだ。 初日から強烈な洗礼を受けたことを懐かしく思い出す。100キロ以上の蒸米を小分けにして布で包み、それを担いで階段を何往復もダッシュして、麹室に運び入れるのだ。冷めてはいけない、大急ぎのその役割を、蔵の先輩から「じゃ、うえの君よろしく」と初日に振られた。ペンと本より重いものをもったことのない大学生活で身体はなまっており、心臓は早鐘のように乱れ、吐きそうになったのを覚えている。 汗みどろになってなんとかやり遂げると、先輩が「おつかれちゃん」と笑った。「殺すぞてめえ」と思ったが、楽しかった。 そこから、物作りの虜になった。肉体を用いて素材と関係性を取り結び、自己を含めた新しい何かを創造していく営みは、なんて楽しいのだろう。 酒蔵から転職してしまい、今は事務職。日がな一日PC作業なのがさみしい。また、なにか物作りをしたいとずっと感じてきた。 &#13;&#10; &#13;&#10; ### ウッドカービングをはじめる 昨年から山歩きを再開した。地元の低山を歩くのは楽しいものだ。 同時に、さみしさも感じていた。山歩きは「通過する」だけなのだ。もう少し、山という人間を超えた実在と、親密な関係性を取り結んでみたいものだと考えた。 しかし山菜取りや狩猟の経験はないし、いきなりはハードルが高い。誰かに弟子入りできればいいが、そういう関係性も今はもっていない。 もやもやとしていると、どこかのネット記事で「グリーンウッドワーク」というものがあることを知った。生木を削って生活の道具を作る、という発想が気に入った。山と親しくなるには、生活に取り入れられるものを作るのが一番だ。 早速、本を買うことにした。久津輪雅[『グリーンウッドワーク』](https://dopa.jp/?p=1005)だ。もしこれからウッドカービングを始めたいという方がいれば、まずはこの本を読むことをおすすめする。 &#13;&#10; &#13;&#10; ![[adcale202501-01.jpeg]] &#13;&#10; また、山歩きの途中でグリーンウッドワークに使えそうな木も発見するようになった。図鑑を手に「これは何の木だ」と葉や樹皮や樹型を見ながら歩く山、思いのほか楽しい。 [冬青](https://matsue-hana.com/hana/soyogo.html)、[リョウブ](https://matsue-hana.com/hana/ryoubu.html)、[ネジキ](https://matsue-hana.com/hana/nejiki.html)、[ウラジロガシ](https://matsue-hana.com/hana/urajirogasi.html)などは滋賀の里山に豊富に自生している。子どもの頃からの遊び場である近所の里山では、植林してある大きな木やマツタケなどでなければ、少々頂いても咎める人はいない。里の人は、同じように山を活用しているので。 木材探しの主な参考書は西川栄明[『板目・柾目・木口がわかる 木の図鑑』](https://book.asahi.com/jinbun/article/14460521)と[松江の花図鑑](https://matsue-hana.com/)だ。前者で使いたい木を見つけ、後者を見ながら山で探す。植生の勉強にもなって、とてもよい。山の機序が身にしみ込んでくる。 &#13;&#10; &#13;&#10; いろいろ山の中を物色しながら不審者ウォークをして、まずは[ヤブツバキ](https://matsue-hana.com/hana/yabutubaki.html)を使ってみることにした。 林道にせり出して邪魔なので伐採されたヤブツバキの切り株がまだ生きていたので、ちょうどよかったのだ。 さて、これを加工するには道具がなければならない。日本では[UPI](https://store.upioutdoor.com/)がモーラナイフの正式代理店となっていることを知り、[モーラのカービングナイフ](https://store.upioutdoor.com/collections/%E3%83%8A%E3%82%A4%E3%83%95-%E3%82%A2%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9-%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%93%E3%83%B3%E3%82%B0)を発注。 これから始めるのならば、まずは[ウッドカービング120](https://store.upioutdoor.com/collections/%E3%83%8A%E3%82%A4%E3%83%95-%E3%82%A2%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9-%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%93%E3%83%B3%E3%82%B0/products/morakniv-wood-carving-120-lc)と[フックナイフ164](https://store.upioutdoor.com/collections/%E3%83%8A%E3%82%A4%E3%83%95-%E3%82%A2%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9-%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%93%E3%83%B3%E3%82%B0/products/morakniv-hook-knife-164-right)があれば十分だろう。左利きの人は[164レフト](https://store.upioutdoor.com/collections/%E3%83%8A%E3%82%A4%E3%83%95-%E3%82%A2%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9-%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%93%E3%83%B3%E3%82%B0/products/morakniv-hook-knife-164-left)を選択。 &#13;&#10; &#13;&#10; ![[adcale202501-02.jpeg]] &#13;&#10; お値段は一本5000円ほどするが、分割払いという借金を駆使して購入した。がんばれ、来月からの自分。 あとは斧だ、斧がないとグリーンウッドワークっぽくならない。ナタでも良いのだが、どうせやるなら形から入りたかった。物作りの初期投資は致し方ない、こればかりは避けて通れない。 グリーンウッドワーク専用に開発された[カルソフの手斧](https://store.upioutdoor.com/products/kalthoff-small-carver-01)も良かったが、もう少し汎用性を持たせたかった。そこで[グレンスフォシュ・ブルーク](https://www.gransforsbruk.com/en/)の[ハンドハチェット](https://ec.firesidestove.com/c/outdoor/outdoor_firewood/outdoor_gransfors/413)を正式代理店である[ファイヤーサイド](https://ec.firesidestove.com/)から購入した。24,000円也、しぬる。 グレンスフォッシュの斧は前述のUPIも正式代理店となっているので、そちらからも購入可能。 しかし生まれて初めて持つスウェーデン製の斧、テンションは上がる。あとは[シルキーのカーブソー](https://www.silky.jp/items/460-21.html)、[パナソニックのタングステン耐切創手袋](https://panasonic.jp/gloves/pro.html)を入手し、グリーンウッドワークの準備は整った。 &#13;&#10; &#13;&#10; ![[adcale202501-03.jpeg]] &#13;&#10; &#13;&#10; ### 作ったものたち そこからナイフと斧を駆使して、いろんなものを作った。つらつらと並べてみたい。 &#13;&#10; --- ![[adcale202501-04.jpeg]] 最初に作ったこのスプーンは、あまりに巨大すぎた。焚き火でスキレットを使う時にはいいかもしれないが、未だ使ったことはない。最初はなぜか巨大になる。 フックナイフを生まれて初めて使ったのだが、今までの刃物の使い方の固定概念を更新することになった。親指をここまで駆使して木を削るのは初めてだ。身体感覚の更新を迫られた。 &#13;&#10; --- ![[adcale202501-05.jpeg]] ヤブツバキの切り株からはククサを作った。拭き漆仕上げを『グリーンウッドワーク』から学び、[簑輪漆行から仕入れた生漆](https://urushiya.ocnk.net/product/1063)で仕上げた。これも実用ではなく、作って満足するものだ。一回も使ったことはなく、今は本棚で小物入れの役割を果たしている。 いや、しかし、ククサは一度は作りたくなるのだ。いいよね。 &#13;&#10; --- ![[adcale202501-06.jpeg]] 冬青でつくったスプーン。拭き漆仕上げにも慣れてきた頃の作品。冬青は緻密かつ、乾燥すると羽のように軽くなるので、スプーンにぴったりだ。スープなどを飲む時も、沈まずに浮かんでくれる。 模様彫りには、ホムセンで買った安い彫刻刀を使用。 &#13;&#10; --- ![[adcale202501-07.jpeg]] こちらはウラジロガシで作ったバターナイフ。手の曲線に合わせたデザインができるのが楽しいところ。 &#13;&#10; --- ![[adcale202501-08.jpeg]] カトラリーはいくつも作ってきたが、まだまだ修業中だ。 &#13;&#10; --- ![[adcale202501-09.jpeg]] こちらは乾燥材を使って作った鳥シリーズ。樫、桜、楓、さまざまな木の端材を入手したので、乾燥材削りの練習のために作ってみたが、好評のシリーズとなった。仕上げは食用クルミオイルで、手触り良く仕上げている。食用クルミオイルは安価かつ仕上がりも良いので、スーパーやアマゾンで買うといい。 鳥は加工にかなり労力がかかるのが難点であり、面白いところ。量産はできない。 &#13;&#10; --- ![[adcale202501-10.jpeg]] こちらは北欧の精霊トムテ。サンタクロースデザインの源流の一つとも言われるので、クリスマス時期に作っている。使っているのは、実家の近所で伐採された桜材。クマリンの甘い香りがして、削っていても楽しい。 塗装はターナーの[ミルクペイント](https://www.turner.co.jp/paint/milkpaint/)を愛用中。色が良い。 &#13;&#10; &#13;&#10; ### 木を手に入れる 近くの里山へ行けば、木材は入手できるだろう。保護林などで採取すべきではないのは当然だが、昔から薪林として利用されてきた里山で薮に自生している成長の早い小径木を少量利用するのは、里の人間からすれば当たり前のことだ。 こういった人の営みを「森林窃盗罪だ」と難癖をつける向きもあるが、まず森林窃盗とは何かを学び、山の歴史や機序を学んでほしい。そうすれば、その指摘は意味のないことだと理解できるだろう。 マツタケや山菜、渓流の遊漁券ならともかくだが、山のなんでもかんでもの所有権を貨幣を使用して買おうとするのは、いち市民としておかしいのだ。夏休みの自由研究を思い出してほしいものである。 &#13;&#10; &#13;&#10; また、近所や公園などで木が伐採されたタイミングもチャンスだ。私も家主や作業員さんに「これください」などと声を掛けて、貰えるものを貰っている。 都市部で里山がないのなら、河川敷や公園がいいだろう。台風などの後には折れ枝が転がっていることがある。生えている立ち木を勝手に伐採するのはNGだが、折れ枝なら問題もない。 湖や海や大きな河川があれば、流木も使える。流木は状態が悪いものが多いし、どのような木なのか分からないことが多いので、カトラリーには不向きだ。オブジェなどに使いたい。 上記のどれもが難しければ、UPIで[ククサなどに用いる乾燥材](https://store.upioutdoor.com/collections/%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%95%E3%83%88)は販売しているし、木工用の乾燥材ならホームセンターで入手できる。 &#13;&#10; &#13;&#10; 下記に紹介しているチェコのNadav氏も「材料を見つけることは、ひとつの技術だ」と語っている。私もそう思う。ぜひ住んでいる地域の環境や季節の移り変わりに目をむけ、地域の人々とのコミュニケーションを深め、その技術を磨いてほしい。 &#13;&#10; &#13;&#10; ### ロールモデルたち なにか新しい技術や世界観を習得するには、目指す目標となるロールモデルが必要だ。私のロールモデルを紹介する。 **Nadav** YouTube : https://www.youtube.com/@nadavartandwood HP : https://nadavartwood.com/ Nadav氏はチェコで活動するウッドカービング作家だ。独学でウッドカービングを学び、その技術を発信している。彼の語り口や優美な曲線には学ぶことが多い。また木材の入手方法や乾燥方法、刃物の研ぎ方までYouTubeで公開されているので、ぜひチェックしてほしい。 私は、彼のようなウッドカービング作品を作ることを目指している。 &#13;&#10; **福畑慎吾** Instagram : https://www.instagram.com/shingo_fukuhata/ Youtube : https://www.youtube.com/watch?v=T7Sbrf3Ok_o&list=PLExZHbvH2fDVK_YJjJWY3vuPlKCXZDxG8 日本の木工作家である福畑さんからはナイフの使い方やトムテの作り方を学んだ。前述のNadavは親指を使った引き切りを得意とするが、福畑さんはまた違ったスタイル。こういったナイフ使いのスタイルの違いからも学ぶ点は多い。 &#13;&#10; **長野修平** Instagram : https://www.instagram.com/shuuheinagano/ 長野さんはモーラナイフのアンバサダーをされている木工作家。 長野さんの「もし普段使いの一本を選ぶなら、私はモーラのカンスボルを選びます」という一言には、そうだよな!と膝を打った。ナイフを使うことに慣れると、薄刃の使いやすさがわかってくるのだ。 &#13;&#10; **沢田英男** Instagram : https://www.instagram.com/sawadahideo 沢田さんの彫刻は空間をも表現するので、私の大きな目標となっている。 &#13;&#10; &#13;&#10; ### 怪我のリスク ここで怪我のリスクを説明しておきたい。 ウッドカービングは斧やナイフなどの刃物を使う営みだ。斧は一撃で指を切り飛ばせる力を発揮するし、ナイフものこぎりも危険なものだ。 率直に言うと、端的ウッドカービングは危険だからこそ楽しい。危険な斧やナイフの扱いが上達して、怪我をすることなく安全に、自分の思い通りに木が削れた時の喜びは、なんともえない。 同時に、私も何度も怪我をしてきた。今年の頭には、ナイフで深めの切創を作ってしまい、近所の外科医に5針ほど縫ってもらった。斧で酷い怪我をしたことも、のこぎりで手を深く切ったこともある。 なので、つねに救急セットを身近に置いて作業をしてほしい。また、近所の外科クリニックを調べて置くことも大切だ。いざというとき、駆け込める場所を知らないと、パニックになりやすいものだ。 下記に私の揃えている救急セット一覧を公開している。参考にしてほしい。特にヘモスタパッドとキズパワーパッド、カテリープは切創に有用だ。何回も使っている。 **[救急セット一覧](https://oryzivora.notion.site/11ee5e1313898065ba27d0e13492a537)** &#13;&#10; &#13;&#10; 私は現場職で怪我に慣れているが、怪我になれていない人は全国各地で行われているグリーンウッドワークや木工ワークショップに参加し、安全な刃物の使い方を熟練者に教えてもらうのもよいだろう。各地の主催団体は『グリーンウッドワーク』に掲載されている。 &#13;&#10; &#13;&#10; ### 木を削る楽しさ 何か技術や文化を身につけるのは、簡単なことではない。設備投資の金銭的痛みや決断の疲労、また試行錯誤の苦しみはつきものだ。技術がすぐに身につかないもどかしさもある。 しかし、そんなことは楽しさに比べれば大したことではなかった。 鋭利な刃物を自分が管理し、使用し、素材を加工し、新しいものを作り、自己を新たに現象させてゆく。さっきまでは「スプーンをつくったことのない自分」がいたが、今は「スプーンを作り、それを使おうとしている自分」がいる。まさに「創世記」にある、刺激的な創造の営みだ。 木は生き物だ。木の流れを読まなければ、刃物は走らない。思わぬところに潜む節に動きを止められ、完成間近で失敗してしまうこともある。だが、でき上がった時のうれしさは何とも言えない。 &#13;&#10; &#13;&#10; そのうち、結果だけではなく、プロセスそのものを楽しめるようになっている自分に気がついた。 次はどこへ、どんな木を探しに行こうか。この木からなにを作ろうか、どのようにデザインしようか。道具を自作したり、工夫したりする楽しみもある。それらのプロセスの運動そのものが、私を変化させていく。そこには、自分が豊かに拡がっていく実感がある。 いつしか私の部屋は、木くずが常にどこかに落ちている部屋になった。 &#13;&#10; &#13;&#10; ![[adcale202501-11.jpeg]] &#13;&#10; 今はBoothを利用して、細々と作品をFediverseの知人友人に買ってもらっている。 「売り買い」といっても、利益化(黒字化)はしていない。滋賀の山や森に無償で与えてもらったもので利益を得るのは、なにかが違うと感じているからだ。自分が所有し、苦労して維持している山林のものを売るのは正当だろう。しかし私は、里山という入会地などからささやかに材料を頂戴している立場である。 なので、作品には数百円程度の値段をつけ、いただいたお金は万年赤字の制作費の足しにさせていただいている。 そんな偏屈な作品を生活の中に置いてもらえるのは、作り手としての大きな喜びだ。 物作りは楽しい。これからもそんな楽しさをFediverseで分かち合っていければと願う。 &#13;&#10; &#13;&#10; ### チャリティ作品販売について 今回はアドカレということで、チャリティ作品を作った。びわ湖岸のヤブツバキで作った「ネコティアン(概念)」である。小さな猫の概念なので、会社のデスク端にでも置いておけるだろう。 &#13;&#10; &#13;&#10; ![[adcale202501-12.jpeg]] &#13;&#10; みなさんのクリスマスを待つ日々に、滋賀の木があってくれれば、とてもうれしい。 販売は下記のBoothショップで、~~5セット出品中~~ アドカレ出品分は完売しました。 **[Boothショップ にほのねぐら](https://oryzivora.booth.pm/items/7674756)** &#13;&#10; &#13;&#10; ### 結び さて、今回は[Fediverse創作展示会](https://adventar.org/calendars/11478)7日目の展示として、本記事を執筆した。最後までお読み頂き、ありがとうございました。 これを期に、自分もなにかを作ってみよう、里山でも歩いてみようと思ってくださる方がおられたなら、著者としては望外の喜びである。 Fediverse創作展示会は25日まで続く。明日はHarukaさんの創作が公開される予定。お楽しみに。 良いクリスマスを。 &#13;&#10; &#13;&#10; >いと高きところには、栄光、神にあれ。 >地には平和、(主の)喜び給う人にあれ。[^wrw] &#13;&#10; [^wrw]: 田川建三訳, 2018『新約聖書 本文の訳』ルカ 2:14, 作品社.